食支援を通じて高齢者を取り巻く食環境を改善!支援の種類や効果まで詳しく解説

「食支援」という言葉を聞いたことはありますか。食支援とは、高齢者や障がい者の「食べること」における環境整備やサービスの提供などを支援する活動です。食支援は高齢者や障がい者が食べることを通して、生きがいを持つことにつながります。

今回の記事では、食支援を通じた高齢者の環境改善の内容だけでなく、食支援の種類や効果について詳しく解説します。

目次

高齢者への食支援とは

高齢者への食支援とは、高齢者が食べることを楽しみつつ、自立した生活を送ることを目的とした活動です。

高齢者の多くは、病院や施設ではなく、住み慣れた環境での暮らしや療養を望んでいます。そのためには多職種が連携し、生活の質(QOL)向上に向けた支援が必要です。食支援もこの支援の1つであり、「口から食べる」はたらきを維持することで、介護予防や認知症支援にもつながります。

在宅高齢者に向けた食支援の種類

在宅高齢者に向けた食支援では、高齢者が可能な限り自立した生活を送ることを目的としたさまざまな支援活動があります。今回の記事ではそのなかのいくつかの例を紹介します。順番にみていきましょう。

療養食支援

療養食とは、現在抱える病気に対し、症状の改善につながるよう栄養バランスを考えた食事のことをいいます。介護施設では、医師の指示に基づいて管理栄養士などが療養食を提供する場合もあります。療養食が適応される病気の具体例は以下のとおりです。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 腎臓病
  • 肝臓病
  • 心臓病

 

療養食の場合、カロリー計算や栄養バランスを考えるのが難しいため、自炊を検討している場合は注意が必要です。塩分や糖分を制限したり、鉄や亜鉛を積極的に摂取したりと、病状によって意識すべきポイントが異なります。病状に合った食事を摂るためにも、自炊を検討している方は医師や栄養士と相談しながら行うようにしましょう。

介護予防と自立支援 

介護予防とは高齢者の身体機能を改善するだけでなく、生活環境を整え、高齢者が可能な限り自立した生活を送れることを目的としたものです。食支援では、高齢者に対し配食サービスの提供を通して安否確認など行うこともあります。

配食時に人と関わりを持つことで、食生活を改善するだけでなく地域とのつながりを持つことも可能になります。

退院退所後のアフターケア

退院時は医療機関からの情報を参考に、介入すべき内容についてケアマネジャーを中心とした医療・介護スタッフがアフターケアします。在宅に移ってからは地域包括支援センターや行政、民生委員などさまざまな人達が連携することで、高齢者やその家族に必要な支援を提供します。

栄養状態の診断と改善

低栄養の可能性がある場合は、医師の指示のもと管理栄養士が訪問栄養食事指導(*)を行うなど、問題解決につながる専門職の介入が必要です。訪問栄養食事指導では、栄養状態や食事状況の評価、食材の選び方や調理方法など食に関するさまざまな内容について管理栄養士への相談が可能です。

高齢になると体が自由に動かなくなることが増えるため、食材の買い出しや調理が困難になる方もいます。手軽にコンビニや外食で済ませてしまうと、栄養バランスが乱れてしまいます。このような生活を続けていると、カロリーは満たされても栄養は不十分な状態になり、生活習慣病になるおそれもあるため注意が必要です。

低栄養による新たな疾患を引き起こさないためにも、栄養状態の診断と改善は食支援の重要な取り組みの1つなのです。

(*)訪問栄養食事指導・・・通院が困難な方に対し、管理栄養士が訪問し療養に必要な栄養や食事について管理・指導するもの

摂食嚥下機能に関する評価や指導、リハビリテーション

食べるために必要な摂食嚥下機能を維持するためにも、食支援では在宅NST(*)が自宅へ訪問し、摂食嚥下機能評価や指導、リハビリをすることもあります。

在宅NSTは食事形態の評価やリハビリだけでなく、口腔内の観察も行います。高齢者が食事を摂らなくなる原因の1つに、口腔内の問題があるためです。高齢になると入れ歯の不適合や口腔内の不潔などから、口に物を入れることに抵抗を感じる場合があります。口腔内の問題を抱えたままだと肺炎などの疾患を引き起こす可能性もあるため注意が必要です。

食支援では定期的に口腔内や摂食嚥下機能を評価・指導することにより、口から食べるために必要な機能の維持にもつながります。

(*)在宅NST・・・歯科関係者(歯科医師・歯科衛生士)やリハビリ関係者(作業療法士・理学療法士・言語聴覚士)など食に関する専門家によって形成されるチーム

自己実現の支援

「おいしいものを食べて幸せになる」という本人や家族の望む生活に対して、高齢者本人や家族の意思を尊重した食生活をサポートすることが大切です。

摂食嚥下機能が低下した高齢者に対し、安全に食べるために支援側はペースト状などの食事形態を提案します。しかし、高齢者はその形態を受け入れられず拒否する場合があります。支援側が一方的に形態を決定するのではなく、高齢者が拒否する理由もふまえて一緒に考える必要があります

「おいしいものを食べて幸せになる」という自己実現を支援するためには、高齢者一人ひとりの環境や文化、背景への理解と共有が大切なのです。

高齢者を取り巻く食環境への支援

高齢者の食環境への支援として、買い物を代行したり調理・片付けを手伝ったりするサービスがあります。

年齢を重ねるごとに筋力・体力ともに衰えるため、自分で食材を買ったり、料理を作ったりなどが困難になるため、そのサポートが必要です。

高齢者の食環境を整える支援について具体的にみていきましょう。

「買い物難民」への代行サービス

買い物難民とは、食料品など日常の買い物が困難な状況に置かれている人々をいいます。その原因は地域の過疎化や公共交通機関の廃止などさまざまです。

高齢者は家族の協力が得られないと、買い物難民になる可能性が高くなります。老化が進むにつれ筋力や体力が衰え、長距離の移動や荷物の持ち運びが困難になるためです。

高齢者の買い物難民への解決策として、買い物代行サービスや移動販売などの支援サービスの利用が有効です。業者に買い物を頼んだり、業者から出向いてもらったりすることによって、高齢者の買い物に対する負担が軽減できます。

調理・片付けの支援サービス

身体機能の低下により、自分で調理や片付けが困難な高齢者に対するサービスもあります。具体的には、配食サービスやホームヘルパーによる食事の準備です。

食事量が少なくなり、簡単に作れる料理が多くなるため、栄養に偏りが生じる可能性があります。栄養バランスが整った食事を摂るためには、配食サービスやホームヘルパーなどの力を借りることも手段の1つです。

食支援がもたらす高齢者への効果

食支援がもたらす高齢者への効果には、以下の3つが期待できます。

  • おいしい食事をあきらめない
  • 経口摂取による心身の健康化
  • 人との交流による生きがいの創出

それぞれの効果について詳しく見ていきましょう。

おいしい食事をあきらめない

食支援では、高齢者が自分で食事の準備をするのが難しくなった場合でも、おいしい食事が食べられるための支援活動をしています。

栄養管理や調理、買い物や片付けなど食べることに関する懸念点は複数見られますが、食支援ではそれぞれの懸念点に対して必要なサポートが可能です。

管理栄養士などのプロから、嚥下機能が低下してもおいしく食べられるメニューの提案などもしてくれます。

経口摂取による心身の健康化

食支援では、口から栄養を摂ることによる健康維持を目的としています。摂食嚥下機能の低下により食べたいものが食べられなくなると、食事への意欲が下がり、低栄養を引き起こすおそれがあります。口から摂取することは中枢神経を刺激して、認知機能の維持にもつながる可能性があるのです。

経腸栄養や静脈栄養など口以外の栄養摂取方法はありますが、口から食べることは心と体の健康を維持し、高齢者が自分らしく健康に生きていくことにもつながります。

人との交流による生きがいの創出

食べることは人との交流の場にもなるため、食事を通した人との交流を生きがいに感じる高齢者もいます。食支援では「食が楽しみ」と感じられる環境づくりにも取り組んでいます。

食事は栄養補給のみが目的ではありません。特に高齢者にとっては「食がその人の物語」であるといえるほど、人生の生きがいを作りだしていることもあるのです。

高齢者のためにできること

高齢者を支える立場である若い世代の人々が、高齢者に対してできることはたくさんあります。

若い世代の人々が食支援に係るためには、地域ごとの食支援に関心を向けたり当事者としての意識を持ったりすることが大切です。 

それぞれの点について、詳しくみていきましょう。

地域ごとの食支援に関心を向ける

食支援は地域によって実態が異なり、高齢者が受けられるサービスの内容もさまざまです。食支援への認識が薄く、職種間の連携が取れておらず、食支援につながる資源が不足している地域もあります。

高齢者にできる支援を考えるためには、自分の住む自治体が行っている支援について調べましょう。知らなかった支援に気付いたり、現在困っている点を解決できたりするかもしれません。

当事者意識を持つ

すべての年代において当事者意識を持ち、ヘルスプロモーションを考えることが重要です。ヘルスプロモーションとは、「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセスである」と定義されており、自分の健康を維持するために、自分自身で考えて行動することをいいます。

今後日本はさらなる高齢化が見込まれています。そのなかで高齢者が地域で生活していくためには、一人ひとりが自分の健康にも目を向けつつ、相手の立場に立って助け合う地域づくりが必要です。「食支援が将来の地域の食文化を創る」という当事者意識を持ち、高齢者に対して若い年代でもできる支援について考えてみましょう。

食支援の輪を広げよう

食支援は、高齢者が年齢を重ねても食べることを楽しみつつ、自立した生活を送るためのさまざまな活動です。食支援を続けていくためには多職種の連携がとても重要です。今後さらに食支援の輪を広げていくには、若い世代をはじめとした幅広い年代への認知が必要になります

若い年代の時から当事者意識を持ち、「何をすれば地域の食支援がもっと良くなるか」について考えて行動していきましょう。

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この記事を書いた人

墨田区出身
東京医科大学医学部医学科卒業
東京医科大学産科婦人科学教室入局
浅田レディースクリニック(不妊治療)
複数の在宅診療所での勤務を経て
「こはる在宅クリニック」を開設

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